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企業にしてみれば,自分が使用する資本のファイナンスという考えに立てば,使用資本とは簿価しかないわけで,簿価の方が単純でよいとの考えもあるのでしょう。
 一方,簿価の負債と時価の株主資本の加重平均を使っているのは, 46%です。
やはり負債の時価を算出するのが難しいのか,銀行借入で賄っているのなら簿価に対して支払義務があり,これを使えばよいとの考えがあるのかもしれません。
まだ単純です。
最も難しい負債・株主資本ともに時価の加重平均を使用しているのは, 27%でした。
理論に忠実な企業です。
 投資評価の場合は,お金に色がついていないため(この投資に使われているお金はだれそれさんから借りたものということがわからないという意味です),使用総資本のファイナンスと同じ負債・株主資本構成でされるとの前提に立てば,このWACCを使用できます。
 次に負債コストの算出です。
これは税引後の金利を適用します。
なぜなら,フリー・キャッシュフローは税引後の世界の数値だからです。
また金利は本来税控除対象ですので,その効果を割引率に織り込む意味もあります。
これは税引前の金利に(1-税率)を乗じて計算されます。
ここでいう金利とは,その企業のリスクを加味した市場レートを使うというのが理論です。
 先ほどの金融機関向け調査では, 73%が現行の長期国債利回り等の現行リスクフリーレートに各企業のリスクプレミアムを反映して算出しています。
この場合,信用リスクプレミアムは,債券格付けの利回りスプレッドが最も多く,プレミアムをつけなかったり,一律1%,推定値という回答もありました。
 企業の過去の財務諸表から過去の平均レートを算出するという回答は18%ありました。
これは,市場レートではなく,簿価に対する支払金利の率を算出していると思われます。
残り9%の回答は,現行の長期プライムレートを使用するというものでした。
 さて,株主資本コストはどう求めるのでしょうか。
また難しい話になりますが,キャピタル・アセット・プライシングモデル(CAPM),という理論モデルがあります。
これは1960年代中頃に開発された統計モデルで,ある株式は他に比べてより危険である(リスクが大きい)との観測に基づいています。
このことは,株式市場が拡大するとき,これら危険な株式はより早く,またより大きくその価格が上昇します。
逆に市場が冷え込むときは,より早く,またより大きく価格が落ち込むことを意味します。
 計算式は,リスクフリー金利十β(市場全体の期待収益率-リスクフリー金利)となります。
この( )内の項を,市場リスクプレミアムといいます。
これによって導き出された数値が,各企業への投資家の期待収益率となります。
先ほどの調査結果を紹介することで,リスクフリーやマーケットプレミアムをどう算定するかを見てみましょう。
 まずリスクフリーレートに関して, 73%の金融機関は現行の長期国債利回りを使用しています。
残り27%は,過去の長期国債利回りの平均を使っています。
国の発行する債券であるため,債務不履行リスクがない(デフォルト・リスクフリー)であるとの考えに立って,国債の利回りを使います。
 マーケットリスク・プレミアムは,TOPIXや日経平均等データの過去の実績値を使っている金融機関が73%でした。
例えば,過去15年間のTOPIX収益率の国債利回りに対する超過収益率が使われています。
これは過去15年間TOPIXに投資していた場合の利回りと,同期間の国債の投資利回りとの差分になります。
マーケット・リスクプレミアムは,株式市場全体リスクを表すものです。
そのため,TOPIXや日経平均といった株価指数を用いるのです。
 CAPM方程式で一番難しいのは,β値です。
これは,個別銘柄の値動きと市場平均の動きを統計処理((可帰分析)して求めたもので,専門の会社から公表されています。
β値が1より大きくなると,市場平均よりリスクが高くなり, 1を下回ると低くなります。
 以上,資本コスト,つまりWACCに関して説明しましたが,今までは日本企業にはこの概念が希薄でした。
しかし,市場がグローバル化し,資本市場での資金調達競争や,機関投資家の意見が強くなるにしたがい,無視できないものとなります。
∧ さて,NPVがプラスになれば,該当する投資は採算に合うということになります。
将来のキャッシュフローが初期投資の元利合計をすべてカバーして,なおかつお釣がきたことを意味します。
 IRR(内部収益率)は投資採算の指標で,初期投資額と将来のキャッシュフローの現在価値が同額になる時の割引率のことです。
つまり,将来のキャッシュフローを何%で割り引けば,初期投資の金額になるかを判定したものです。
これは,資本コストと比べられ,資本コストを上回れば,投資採算があると考えられます。
 まず,ある年に90億円投資し,その後各年でそれぞれキャッシュフローが生み出され,残存価値が10億円あった場合を考えてみましょう(86ページの表3-1参照)。
この場合,投資対象の寿命は5年と考えています。
 原始的な方法は,まず10%と当たりをつけ各年のフリー・キャッシュフローを10%で割り引いてみます。
結果は, 103億円となり,割引度合いが小さいことがわかりました。
それでは, 15%ではどうかとやってみます。
すると, 87億円となり今度は割引率が高すぎたことがわかります。
14%だと90億円となります。
解答は14.065%です。
パソコンで使うスプレッド・シートにはIRR計算用の関数が組み込まれており,簡単に計算できます。
 それでは,NPVとIRRどちらが投資採算により適しているか,もし2つの投資をNPVとIRRで比較し,それぞれ反対の結果が出た場合どちらを採用するかという問題があります。
図3-3を見てください。
投資Aの方がIRRでは投資Bを上回っており,良いように見えますが,ある割引率(P)より資本コストが下回れば,NPVはBの方が優れていることになります。
 キャッシュフローのパターンに違いが出るのは,将来のキャッシュフロー計算期間の後半に厚いキャッシュのインかおるのか(投資B),前半にあるのか(投資A)の違いからきています。
 前半に厚いキャッシュフローがあれば,割引率が大きくなればなるほど後半でのキャッシュインのインパクトが小さくなり,有利となります。
逆に,割引率が低ければ低いほど後半で厚いキャッシュインの存在が大きくなります。
 この事例では,割引率ゼロの時には将来の総キャッシュフローは600と,投資Bの方が投資Aを上回っています。
しかし,Bは後半に厚いキャッシュフローがあるため,割引率が大きくなると,特にP点を越えれば,NPVが投資Aより小さくなってしまいます。
 理論的には,企業の価値を最大化するのならNPVを使うべきとなります。
これは,この後述べる事業や企業価値がまさに将来のフリーキャッシュフローの現在価値であり,初期投資に該当する投下資本(使用総資本)と比べて,それを上回れば,価値創造,逆なら価値破壊とみなすことからも,NPVを使用すべきといえます。
 投資評価の3番目の指標は,投資回収期間です。
英語では, Payback Periodといいます。
日本企業で比較的よく使われる物差しです。
これは初年度の投下資本やその後の追加投資(キャッシュアウト)やキャッシュインすべての累計がOになるのはいつか(投資後何年か)を見るものです。
 例えば,回収期間3年以上の投資はしないという基準があれば,これをハードルにして評価・意思決定します。

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